2020年10月1日以降引き渡し居住用建物の無理やりな消費税還付について検証

2020年10月1日から居住用賃貸建物の購入による消費税還付が封じ込められました。 これにより2020年3月31日以前の契約による建物(居住用)引き渡しを除き、消費税還付スキームは少なくとも取得事業年度においては使用できなくなりました。 しかし、本当に完全に封じ込まれてしまったのでしょうか。新しい概念である「居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控除の調整」も踏まえて、考えてみました。

今回の記事の前提となる知識

そもそも消費税還付とは

不動産投資における消費税還付とは、物件購入時に建物に係る消費税額(=建物の取得価額×10/110)を消費税の申告書の提出により還付を受けるという内容です。 還付を受けるためにはスキームがあります。詳細は「消費税還付の大まかなポイント」をご参照ください。

2020年10月1日から適用される封じ込め内容とは

2020年10月1日以降の取引において、居住用賃貸建物の取得(2020年3月末日までに売買契約を締結している場合を除く)については消費税の仕入税額控除制度の適用が認められなくなりました。 詳細は「消費税還付の今後について」をご参照ください。

居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控除の調整について

そもそも居住用賃貸建物とは

居住用賃貸建物とは、「住宅の貸し付けの用に供しないことが明らかな建物(その付属設備を含みます。)以外の建物」(法別表1十三号)で高額特定資産(1000万円以上の建物等と認識して下さい)に該当するものを言います。 要するに、設備等から判断して明らかに非居住用の建物以外の建物が該当します。事務所や倉庫などには浴槽等がついていないと思いますが、そのような実態基準で判断されると思われます。

居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控除の調整とは

2020年10月1日から適用される封じ込めにより、居住用賃貸建物の取得時に仕入税額控除ができません。 しかし、民泊やウィークリーマンション等、その建物を利用して得られる売上が課税売上である場合についても建物の仕入税額控除が受けれないとなると、その事業者が不利益を得ることになるため、3年後の事業年度に調整計算が取られることとなりました。 調整計算では下記の算式による消費税額の仕入税額控除を認めています。

加算する消費税額=居住用賃貸建物の課税仕入等に係る消費税額×(A)のうち課税賃貸用に供したものに係る金額/調整期間に行った居住用賃貸建物の貸し付けの対価の額の合計(=(A))

イメージとしては3年間のその建物の利用による課税売上割合分だけ建物の消費税還付を認めるというものです。ただし、還付されるのは建物取得の3年後です。民泊・ウィークリーマンション等の経営者は痛手となります。

還付方法①:3年間民泊物件又はウィークリーマンションとする(=正攻法)

取得した建物を賃貸マンション(又は賃貸アパート)としては利用せず、全室民泊又はウィークリーマンションとして3年間利用する方法です。 取得時の建物は居住用賃貸建物に該当するため、取得年度は消費税還付を受けられません。 しかし、民泊又はウィークリーマンションの売上は課税売上となるため、3年後に建物に係る消費税額の還付を受けることができます。

デメリット

新設法人の場合、2年間は本来消費税の免税事業者にも関わらず、消費税を納税する必要がでます。3年間のトータルの消費税額を比較検討する必要があります。

また、民泊の許可が取れるかも分かりません。民泊用の建物取得に銀行が積極的に融資するかも疑問です。

還付方法②:取得時の内装を事務所仕様とする(=非現実的)

物件取得時の内装を事務所仕様とし、取得後に居住用の内装にリフォームする方法が考えられます。しかし、リフォーム費用が高額かつ無駄なので現実的ではありません

還付方法③:3年間賃貸借契約書上「民泊利用」又は「事務所利用」とする(=税法以外の法律で問題あり)

令2改正法附則46より、「「その契約において貸し付けに係る用途が明らかにされていない場合にその貸付等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合」の貸付については、非課税とされる住宅の貸付にはふくまれない」とされています。 上記解釈から、あくまでも消費税法上では、賃貸借契約書に「民泊利用」又は「事務所利用」と用途を記載すれば、実際の用途が居住用であってもその賃料は課税売上に該当すると考えられます。 そのため、取得後3年間のその建物に係る売上は全て課税売上となり(つまり、金の売買も不要)、仕入税額控除の調整により、3年後に建物に係る消費税額の還付が受けられる可能性があります。

デメリット

ただし、この方法は現時点では全く推奨できません。理由は下記です

還付は3年後、更にトータルで考えると旨味が少ない

本来家賃収入は非課税売上に該当するため、家賃収入に対して消費税の納税は発生しません。しかし、還付方法③を使用する場合、本来納税する必要のない消費税を3年間納税する必要がでます。具体的には下記のようになります。

(例)土地1億円、建物2.2億円、利回り8%、仕入税額控除の対象となる経費を売上の30%(不動産賃貸業の経費の大半を占める人件費、租税公課、減価償却費、保険料、支払利息は仕入税額控除の対象外です)の場合
■第1事業年度:家賃収入2560万円に対する消費税額は約232万円、それに対する仕入税額控除は69万円、よって163万円の消費税納税
■第2事業年度:家賃収入2560万円に対する消費税額は約232万円、それに対する仕入税額控除は69万円、よって163万円の消費税納税
■第3事業年度:家賃収入2560万円に対する消費税額は約232万円、それに対する仕入税額控除は69万円、よって163万円の消費税納税となるが、仕入税額控除の調整で2000万円(第1事業年度の取得建物に係る消費税額)を仕入税額控除に加算することができるため、1,837万円(=2000万円▲163万円)の還付となる。

3年間トータル:1,837万円▲163万円▲163万円=1,511万円
還付に係る税理士報酬が2000万円の15%だった場合、300万円の費用が発生。また、建物に係る消費税額は本来減価償却費となる金額であり、468万円(=2000万円×23.4%)の節税機会の喪失も考慮が必要となる。

よって、トータルでは743万円(=1,511▲300▲468)の効果ということになり、還付を受ける前に支出が必要となる割には還付による恩恵が少ないように感じられます。

税法以外の法律の問題が発生する

還付方法③では、入居者との賃貸借契約書に、実態とは明らかに異なる用途(事務所利用など)を記載することとなります。貸主の消費税還付のために、借主と実態とは異なる賃貸借契約を結ぶ行為が果たして許されるのか。 また、明らかに実態とは異なる賃貸借契約書を作成する宅建業者は問題にならないのか。さらには、実態とは異なる賃貸借契約書の存在により不利益(本来徴収すべき消費税額を納税者に還付しなければならない)を被る国は、この行為を問題視しないのか等、いくつもの懸念点があります。 消費税還付のために、借主や管理会社に迷惑をかけてしまう行為はやめておいたほうがいいでしょう。

結論

結論としては、やはり賃貸アパート・賃貸マンション投資における消費税還付は民泊・ウィークリーマンションとしての用途を除き、封じ込まれてしまったことになると思われます。