この記事は年金に過度な期待をせず、自分の老後は自分で切り開こうとされている小規模企業の社長向けの内容となっています。

 所得税は累進課税制度をとっており、所得が上がるにつれ最大45%の税率となり、住民税と合わせれば年収の半分近くが税金の支払いに消えてしまいます。ところが所得税において退職所得は、老後の生活費が考慮されており、所得税法上非常に優遇されております。今回はそんな退職所得を複数作り出し、適切に受け取ることによる節税等について解説いたします。やり方次第で実質所得税率が30%以上も変わってくる内容ですが、長期的なプランニングが必須なので、早いうちから検討しておきましょう。

退職所得の優遇措置

退職所得は普通の給与所得と異なり、3つの優遇措置があります。

1つ目が退職所得控除で、勤続年数に応じ一定額を所得控除できます。例えば15年勤務の場合は600万円(=40万円+15年)、30年の場合は1500万円(=800万円+70万円×(30年▲20年))を退職金から控除できます。

2つ目が1/2課税です。1つ目で退職所得控除を受けた金額から更に半減されます。3000万円の退職金で30年勤務の場合、所得は750万円(=(3000万円▲1500万円)×1/2)となります。

3つ目が分離課税です。退職所得は通常の給与所得と異なり、その年の他の所得と合算されません。退職所得と別に給与所得や不動産所得があった場合でも、退職所得のみに対して累進課税制度が適用されるため、税率が高くなりにくくなっています。

退職所得としての収入を複数作り出す

 前項で説明した通り、退職所得は所得税法上、かなり優遇されています。そして、一定の条件を満たせば、複数年で異なる支払先から受け取った退職所得については前項における3つのメリットをそれぞれの受け取り年度に使用することができます。つまり、3つの退職所得をあらかじめ作り出し、複数年にわたって受ければ、それぞれの受け取り時に退職所得控除と1/2課税、分離課税の恩恵を受けることができるのです。

では退職所得にはどんなものがあるのか。経営者の方であれば下記の内容が考えられます。

・法人からの退職金(複数社所有している場合、当然それぞれの法人から受け取ることができます。)

・小規模企業共済の一時金(要件あり)

・確定拠出年金の一時金

退職金を上手く利用した場合の節税例

 小規模企業の経営者の場合、節税目的で複数社所有しているケースもありますし、1社所有の場合でも小規模企業共済や確定拠出年金に加入することは簡単にできます。そのようにして、仮に3か所から複数年において退職所得を受け取る場合と役員賞与として一括で受け取る場合の比較が下記となります。

このように、実質所得税率で30%以上の差がついてしまう場合もあるため、なるべく早めにプランニングをすることをおすすめしています。実際には役員報酬・役員賞与で受け取る場合、社会保険料も考えなければならないため、キャッシュフローはもっと差が付きます。

退職所得による節税策は効果が大きいため、注意点も多くあります。

例えば役員の退職金については、過度な節税を防止するために勤続年数が5年以下(=特定役員等)の場合には1/2課税の優遇措置が使えないことになっています。また、法人からの退職金や小規模企業共済は4年以内に受給している場合には重複期間で減額措置があり、さらに確定拠出年金については前年以前14年以内に他の受給がある場合は減額対象となってしまうため、受け取り時期や受け取り順序にも注意点が必要です。その他にも退職金規定等を定めるなど、優遇措置としての効果が大きいだけに注意点も多くなっています。

長期的なビジョンが必要な内容であるため、節税等・キャッシュフロー改善において信頼できる税理士と綿密な打ち合わせをした上で計画しましょう。