これから開業する方で個人事業主としてスタートするか、法人としてスタートするか迷っている方向けの記事となります。

シミュレーションをするのが理想ではあるが

 独立を決めた方が悩む内容で、個人事業主として開業するか、法人として開業するかがあります。対外的な側面で法人として開業するしか選択の余地がない場合もありますが、手間や税金を踏まえて検討することができる方には一度シミュレーションすることをおすすめしております。個人や法人の場合に発生する各種経費、実行できる節税策、業績予測による税金を比較し、より有利な方で開業するのが理想です。

 ですが、開業前のシミュレーションはあくまで予測された売上をベースに行うため、実際には開業前に正確な予測をするのは難しいと考えられます。しかも、個人と法人でできる節税内容、発生する税金、社会保険料、経費はそれぞれで大きく異なりますが、これを開業未経験の方がある程度正確に行うことは現実的ではないとも思われます。

基本的には個人事業主からスタートすることをおすすめしています

 ですので、見込み売上額や従業員数等のおおまかな内容を判断しての前提にはなりますが、判断を迷ったときにはまずは個人事業主でスタートすることをおすすめすることが多いです。個人事業主であれば、各種届出書や申告書の煩雑さが法人よりも圧倒的に少なく税理士に依頼しないで自己申告も可能ですし、個人事業主として安定後に法人成りをするという前提であれば消費税の免税期間をより長く取ることができるからです。特に消費税の免税期間については、法人でスタートするよりも最大24か月長く取ることができるため、月の売上400万円(簡易課税制度適用)の飲食店の場合、消費税10%で考えれば384万円(=40万円×(1-0.6)×24か月)の消費税を納めなくていいことになり、かなりの節税になります。

 また、法人の場合、社会保険への加入が免れません。社会保険料は給料の約30を受給者と法人で折半しますので、全支給額の約15%が法人負担となり、特に開業したての時期には負担額が重くのしかかります。それに対し個人事業主の場合、サービス業であれば社会保険の加入は任意となっております。また、サービス業以外でも正社員が5名未満の場合には任意となります。

 さらに設立に関しても法人の場合は登記が必要となり、合同会社であっても約10万円、株式会社では約25万円が設立費用の相場となっています。合同会社も株式会社も基本的には違いがありませんが、社会的信用度を目的に法人設立する場合、一般的には株式会社を選ばれるケースが多いため、設立だけで約25万円の費用が発生することとなります。

 申告に要する手間・知識も個人と法人では段違いで法人の方がハードルが高いです。実際、個人の申告であれば自己申告している方もちらほらいますが、法人の申告を自分でされている小規模事業者はほとんどいないのが現状です。ちなみに税理士報酬も個人よりも法人のほうが高いことが一般的です。

法人スタートしたほうがいいのはどんな時か

 それではどんな時でも個人事業主スタートのほうがいいかと言うと、そうでもありません。取引先との兼ね合いで法人スタートでなければならない場合を除いても、①税率でのメリットがある可能性が高い場合、②個人ではできないが法人ではできるインパクトの強い節税策に上手く当てはまる場合、は各種費用・税金・社会保険料を勘案したうえで法人スタートしたほうがいいでしょう。

税率でのメリットがある可能性が高い場合

国税庁HPより

 事業開始前の予測はうまくいかないこともありますが、なにかしらの根拠がある場合は話が別です。法人税率は所得800万円までは一律(2019年7月現在の中小法人は15%)で、個人とは異なり事業者への報酬も経費計上できるため、個人事業主よりは所得分散により税金を少なくすることは容易です。それに対し個人事業主の所得税率は下記表のように累進課税制度となっており、課税所得が900万円を超えると所得税率33%と住民税が約10%発生するなど、所得が大きくなるにつれ負担率が高くなります。ですので、一定の課税所得に達する可能性が高い場合は法人からスタートするほうがいいかもしれません。

個人ではできないが法人ではできるインパクトの強い節税策に上手く当てはまる場合

 法人では個人ではできない効果ある節税策があります。大きなものでいえば、旅費規程を利用した日当旅費、社宅活用、役員賞与を利用した社会保険料の削減策、親族への所得分散、などです。どの節税策も合法的かつ最大限に実行するためにはノウハウが必要なため、できれば小規模事業者の節税等に詳しい税理士に仕組みづくりを依頼することをおすすめします。ただ、ざっくりといえば、遠方地への出張が多い場合、住宅ローンを組んでいない場合、国民健康保険料が高い場合、は該当する可能性が高いため、検討したほうがよさそうです。

 消費税の免税期間の関係もあるため、個人事業主からスタートしたほうがいい場合が多いのが実際です。ただ、ご紹介したように法人からスタートしたほうがいい場合もあるため、条件に該当する場合は小規模事業者に精通した税理士に相談してみてください。Giraffeでは税務顧問だけでなく、個別コンサルも実施する予定なので、2020年以降でしたらお気軽にお問合せください。