不動産投資家も中小企業の経営者も、決算期が近づくにつれ今期の税金を低くする方法を探す傾向にあるイメージです。本質的な節税ではなく課税の繰延にはなりますが、中小企業倒産防止共済を利用することでその事業年度の税金を抑えることができます。
今回はこの倒産防止共済について、その制度の概要や特徴、注意点についてみていきたいと思います。
制度の概要
倒産防止共済は、中小企業基盤整備機構(以下、「中小機構」)が、中小企業や個人の事業者に提供している共済制度で、中小企業や個人事業者の連鎖倒産を防ぐために設けられた制度です。共済に加入して月々の掛金を支払っておけば、もし取引先の倒産により売掛債権が回収できなくなった場合に、①実際の損害額、②納付済掛金の10倍の金額、のうちいずれか小さい金額を「無利息・無保証人」で借りることができます。
ただし注意点もあり、「無利息」を謳ってはいますが、貸付額の10分の1に相当する額が払い込んだ掛金から控除されるため、実質的には貸付時に10%の利息をとられていることと同じである点には注意が必要です。8000万円借りた場合、800万円の掛金が消えてしまうため、資金調達のための最終手段、といった位置づけとなります。
加入対象者
法人または個人事業主の場合、1年以上事業を継続しており、業種ごとに定められた「資本金の額又は出資の総額」または「常時使用する従業員数」を超えない会社または個人の事業者となります。例えば製造業では、「資本金の額」が3億円以下または「常時使用する従業員数」が300人以下である必要があります。
(以下詳細:http://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/eligibility/index.html)
また、上記の条件を満たしていた場合でも、法人税を滞納しているなど、一定の場合には加入することができません。
課税の繰延の仕組み・注意点
制度の概要と加入条件についてみてきましたが、倒産防止共済の一番のやはり特徴は、課税の繰延策としての使い勝手の良さでしょう。
倒産防止共済は、共済の月々の掛金を全額損金(経費)とすることができ、さらに納付した掛金は一定の条件を満たせば全額任意の時期に取り戻すことができる仕組みとなっています。掛金については、毎月5千円~20万円の間において5千円単位で自由に設定することができ、一度設定した掛金も自由に変更することが可能です。また、1年間の前払いも可能で、前払いした掛金も支出の生じた事業年度に損金算入することができます。ですので、予め利益が出ることが見込まれている事業年度は毎月20万円ずつを12か月間支払い、さらに1年分(12か月)の前払いをすることで、合計480万円の損金を作り出すことができます。
ちなみに掛金の上限は800万円であるため、月20万円ずつ納付すれば40ヵ月、掛金を全額損金(経費)とすることができます。また、納付した掛金は40か月以上納付をすれば全額を任意の時期に取り戻すことができます。(12か月未満の場合は0%、12か月以上40ヶ月未満の場合は100%未満の掛金の返戻となります。)
注意点は、掛金の返戻を受けた事業年度はその返戻金の全額が益金(利益)となってしまい、課税対象となってしまうことです。ただし、解約は任意の時期に可能であるため、赤字が見込まれる事業年度や退職金の支給のある時期に解約時期を合わせるなど、返戻金による利益を圧縮するための対策が取りやすく、また急な資金が必要になったときなどにも非常に使い勝手のいい制度となっています。
その他の特徴
倒産防止共済は上記以外に、取引先が倒産していなくても一定の枠内で借入を受けることが出来るという特徴があります。例えば、契約者が臨時に事業資金を必要とする場合には、一時貸付金として納付期間に応じて最大で納付した掛金の95%相当額を借り入れることがでます。なお、この場合の借入期間は1年で利率は年0.9%と優遇されています。元々法人が支出した掛金ではありますが、資金が急に必要な場合には有用です。
以上のように、倒産防止共済は純粋な意味でいう節税効果があるわけではありませんが、課税の繰延策としては有効で、かつ使いやすいです。内容をきちんと理解したうえで、加入するかどうか検討してもいいと思います。