先日厚生労働省が発表したこちらの資料、正に戦慄の内容でした。
要約すると、こんな内容でした。
- パートの社会保険扶養はほぼなくす基本方針
- 2024年は小さな改正(確定)
企業規模要件:従業員100人超⇒50人超
- 2025年以降は大改正(予定)
〇:週20時間未満の労働でも社保加入?
△:(恐怖)106万円の壁⇒65万円or70万円の壁へ?
〇:従業員100人超⇒企業の規模要件撤廃?
〇:フリーランス・請負型の労働者も加入へ?
現在パートの方がとても気にしている、106万円の壁・130万円の壁も、早ければ2025年から激変するかもしれません。
今回はその厚生労働省発表資料を踏まえて、今後のパート社会保険扶養の流れ・改正後も有効な扶養のままでいられる対策方法について記事にしました。
国保・国民年金加入のフリーランスの方、副業をしている方にも関係ある話となるので、是非最後までご覧ください。
(パート目線)なぜパートは扶養でいたほうがいいのか(+政府・企業の思惑とは))
現状、パートの方目線では、社会保険は扶養に入れるなら扶養に入ったままの方が有利です。 理由は2つ。
- 扶養から外れると手取り収入が減る(約15%減)
例)40歳で月給10万円⇒社保負担額14,900円分手取りが減る - 加入しても将来増える年金額が負担額に見合っていない
⇒インフレ率考慮すると100歳近くまで生きないと元が取れない
※細かなシミュレーション方法はこちらの動画で紹介していますので、もしよければご参照ください。
以上の理由から、パートの方にとって、政府が議論している社会保険の適用拡大なんて大きなお世話です。 正に、改悪、です。
同様に、勤務先・会社サイドとしても、適用拡大には反対です。 会社の財政負担が増えるからです。
社会保険は労使折半なので、会社としては社保加入しない人がいるほうが都合がいいです。
それに対して、政府側は、社会保険の適用拡大を絶対に達成するつもりです。 理由は、財源確保、その一点です。
一応発表資料に、適用拡大を進める理由が3つ記載されているのですが、結局のところは財政確保です。 こちらのように、資料にも適用拡大による年金制度の維持の記載がきちんとされています。
(現状)パートが扶養でいるための要件)
現時点でパートが社会保険の扶養でいるためには下記2点を同時に満たす必要があります。
- 配偶者の社会保険の扶養要件を満たすこと
- 勤務先で社会保険に入らないこと
①②の2つを満たすことにより、初めて社会保険の扶養に入れます。 もし①を満たすけど②を満たさない場合には、勤務先で社保加入となってしまいますし、②を満たすけど①を満たさない場合には自分で国保・国民年金加入となってしまいます。
「①配偶者の社会保険の扶養要件」で特に重要なのは130万円の壁と呼ばれるもので、要するに月給108,333円にしましょうという内容です。 130万円の壁についてはこちらの動画で詳しく扱っているので、是非ご参照ください。
そして今後の大改正で問題になるのは、下記の「②勤務先で社会保険に入らないための要件」です。
下記のいずれかを満たさないこと
- 週の所定労働時間:20時間以上
- 賃金要件:月88,000円以上(106万円の壁)
- 勤務期間2か月以上
- 学生でないこと
- 従業員100人超の企業
現状ですと、こちらの①から⑤の要件の内、一つでも満たさないものがあればOKです。
一番メジャーなのが、賃金要件で、いわゆる106万円の壁だと思います。 仮に他の要件を満たしていたとしても、毎月の給与収入が88,000円を下回っていれば、勤務先で社会保険加入義務は発生しないということになります。 その他にも、学生はそもそも勤務先で社会保険加入義務はありません。
また、勤務先の規模も関係します。 ある程度の規模の会社じゃないと従業員の社会保険料負担が厳しいという理由で、全社の被保険者数100人超の企業でなければ、社会保険加入義務はありません。
(今後)2024年と2025年以降の改正内容)
先ほどの「勤務先で社会保険加入しないための要件」が、2024年10月から少し改正されます。
下記のいずれかを満たさないこと
- 週の所定労働時間:20時間以上
- 賃金要件:月88,000円以上(106万円の壁)
- 勤務期間2か月以上
- 学生でないこと
- 従業員100人超の企業 ⇒50人超
改正内容はこちらの赤字部分で、会社の規模要件が、現在の被保険者数100人超から50人超へ変更となります。 今までパートの社会保険加入義務がなかった中規模法人であっても、2024年10月からは106万円の壁が重要になるかもしれないので、ご注意ください。 ここまでが、現状で確定している改正内容です。
これだけであれば、パートの方が社会保険の扶養でいるためのハードルはさほど高くありません。 ですが、2025年以降はこうなる可能性が高そうです。
下記のいずれかを満たさないこと
- 所定労働時間:週20時間以上 ⇒労働時間要件撤廃?
- 賃金要件:106万円の壁⇒65万円or70万円の壁?
- 勤務期間2か月以上
- 学生でないこと
- 従業員100人超の企業 ⇒50人超 ⇒規模要件撤廃?
まず①の週労働時間の要件は撤廃される可能性が高いです。 こちらの厚生労働省の資料に記載されている通り、今後の改革で実施すべき項目として、週所定労働時間20時間未満の労働者への適用拡大、とあるからです。
ここまで明確に記載があるということは、①の撤廃は既定路線だと考えられます。
ここでは同様に、企業規模要件の撤廃についても記載があります。
そのため、⑤の会社の規模要件も、さらに縮小されることがほぼ既定路線、恐らく、近い将来規模要件は撤廃するものとみられます。 ただ、まあここまでの改正であれば、扶養のままでいるためのハードルもそこまで高くありません。 結局のところ、106万円の壁さえ下回っていればいいからです。
なので、問題は②の賃金要件の改正があるかです。 発表資料の中に、賃金要件の改正に対しても直接的な言及はありませんでした。 ただ、賃金要件については以前から引き下げの議論がされており、現在のいわゆる106万円の壁から65万円又は70万円の壁へ変更される可能性も十分あります。
こちらのように、平成16年時点で、年収要件はそもそも65万円で検討されていました。 これは当時の実態に即していないと判断され、労働時間の要件が採用されましたが、今も正に議論されています。
そして、年収70万円を要件にするという考えも議論されています。 こちらは厚生年金と基礎年金との整合性を模索した考え方です。 どちらが採用されたとしても、現在の106万円と比較して、かなり年収要件が引き下げられてしまいます。
月の収入に換算すると55,000円程度で社保加入、です。 この②の改正がされるかどうかが一番問題です。
(今後)どうすれば扶養のままでいられるか
もし2025年以降、全ての改正をされてしまったらどうするか。 これはその他の改正との絡みの問題もありますが、現時点で考えるとすれば、例えばこんな案があります。
解決策①:2社以上でパート勤務する
(1勤務先で65or70万円の壁を超えない)
現行制度ですと、パート先で社会保険に加入するための要件は、1つの勤務先で全ての要件に該当することです。 であれば、1社1社でもらう年収は65万円未満に抑えて、2社以上で勤務する、という方法が有効です。
(今後)フリーランス、副業者も他人事ではない
2025年以降の改正、現在社会保険加入とは無縁であるフリーランスや副業・兼業者も他人事ではありません。 特にフリーランスの方については、全69ぺージの資料の内、12ページ以上が割かれていました。 その抜粋がこちらです。
個人事業主であるフリーランスへの社会保険加入も既定路線のようです。 フリーランスの方の場合、社会保険加入によるメリットも確かに大きいので、強制加入=即改悪、という話ではありません。
ただ、手取り収入が減ってしまうことは間違いないので、やはり動向を注視する必要がありそうです。
また、資料では副業・兼業についてもページが割かれていました。 現状、サラリーマンの副業・兼業収入に対して社会保険料は発生しませんが、これも近い将来メスが入りそうです。
まとめ
- パートの社会保険扶養はほぼなくす基本方針
- 2024年は小さな改正(確定)
企業規模要件:従業員100人超⇒50人超
- 2025年以降は大改正(予定)
〇:週20時間未満の労働でも社保加入?
△:(恐怖)106万円の壁⇒65万円or70万円の壁へ?
〇:従業員100人超⇒企業の規模要件撤廃?
〇:フリーランス・請負型の労働者も加入へ? - 大改正後も扶養のままでいる方法:パート勤務先を2社以上にし、1社65万円or70万円未満の収入にする