【速報】パート主婦の社会保険適用拡大について2024年10月改正内容と厚生労働省発表資料を札幌の税理士が簡単解説します(106万円の壁/130万円の壁/社保扶養)

厚生年金の適用拡大、政府は企業規模条件撤廃の方針を固めた。
朝日新聞で社会保険の扶養に関する衝撃的な記事が掲載されました。

企業規模条件の撤廃自体は前からされるだろうと言われていましたが、やはり衝撃です。 これにより、現在社会保険の扶養に入っている150万人から最大510万人の方が影響を受けるかもしれません。 自分で社会保険加入となれば、手取り額は今よりも約15%少なくなります。 パート主婦に対する、実質的な増税、です。

今後、パート主婦の社会保険はどうなるのか。何か対策はないのか。 今回の記事はそのような内容をまとめました。

社会保険の扶養の基本

■130万円の壁
 社会保険の扶養に入るための要件
 ※扶養者の収入の半分未満という条件もあり
 ☆2023年10月から一時的な収入アップの緩和措置あり
■106万円の壁
 勤務先で社会保険加入となる要件(2024年6月時点)
 次の要件を全て満たす場合
 ・従業員数101人以上の勤務先 ←改正あり
 ・1週20時間以上勤務
 ・月額88,000円以上
 ・継続して2か月を超えて使用される見込み
 ・学生でないこと

現行の社保扶養の基本が分かっていないと改正内容を理解できないので、簡単におさらいさせてください。

まず、社会保険の扶養はそもそも扶養者が協会けんぽや健康保険組合に加入していることが前提の話です。 扶養者とはパート主婦の方で言えば、ご主人のことです。 協会けんぽや健康保険組合は、会社員や公務員の方であれば大抵加入しています。

なので、もしご主人がそれ以外のお仕事をされている場合、例えば自営業・フリーランスの方であれば、国民健康保険加入となるので、そもそも社保の扶養云々の話は関係なくなります。

で、社保の扶養を考える上では、いわゆる130万円の壁・106万円の壁と呼ばれるものが有名です。 130万円の壁は社会保険の扶養に入るための要件で、106万円の壁はパート先で社会保険加入となる要件のことです。 似ていますが、全然意味合いが違います。

例えば、130万円の壁だけが問題になる方だと、そのパート勤務者はご主人の社保の扶養から外れる一方、勤務先で社保加入とはなりません。 勤務先で社保加入とならないので、一人で国保に強制加入となります。

それに対し、106万円の壁に該当すると、パート勤務先で社保強制加入となります。 106万円の壁に該当すれば、130万円の壁はもう関係ありません。 ちなみに、130万円の壁については、2023年10月から一時的な収入アップの緩和措置が設けられています。 会社都合の残業等で年収130万円を超える場合には、雇用者の証明書発行で、社保の扶養のままでいられるというものです。 詳細は是非こちらの動画でご確認してください。

で、勤務先で社会保険加入となる106万円の壁ですが、次の要件の全てを満たす場合に該当します。 従業員数が101人以上の勤務先であること。 ここで言う従業員数とは社保加入者のことを言います。

1週間20時間以上の勤務であること 月収88,000円以上であること。 継続して2か月を超えて使用される見込みであること 学生でないこと。 これら、全てを満たすことを要件としているので、逆に言えば1つでも満たさなければ、勤務先で社会保険加入とはなりません。

例えば、学生であれば、他の要件を満たしていても106万円の壁にひっかかることはありません。 で、106万円の壁の要件の中で、パート主婦が比較的抜け穴として使いやすかったのが会社規模要件、つまり従業員数101人以上の勤務先という部分でした。 要するに従業員数100人以下のパート勤務先なら、106万円の壁にひっかからないということです。

2024年10月の適用拡大

2024年10月以降の適用拡大について。

■106万円の壁
 勤務先で社会保険加入となる要件
 次の要件を全て満たす場合
 ・従業員数101人以上⇒51人以上
 ・1週20時間以上勤務
 ・月額88,000円以上
 ・継続して2か月を超えて使用される見込み
   ・学生でないこと

先ほどの106万円の壁について、残念ながら2024年10月から改正が入ります。 会社規模要件の従業員数101人以上が、従業員数51人以上となります。 抜け穴として使いやすかった会社規模要件が変更となりました。

2024年10月以降のパート勤務先での社会保険加入要件を別の見方でみるとこんな感じになります。

<パート勤務先の社会保険加入要件(2024年10月~)>
①従業員数51人以上の場合(2024年10月~)
 ⇒次の要件をすべて満たすと社保加入
 ・1週20時間以上勤務
 ・月額88,000円以上
 ・継続して2か月を超えて使用される見込み
   ・学生でないこと
 ☆対策:パート先を複数社にする
②従業員数50人以下の場合
 ⇒所定労働時間・日数が正社員の4分の3以上(4分の3要件)
  例)正社員が週40時間で週30時間以上働くと勤務先で社保加入
 ☆130万円の壁超え・4分の3要件未満だと自分で国保・国民年金加入

まず、従業員数51人以上の勤務先の場合、次の全てを満たすと勤務先で社保加入ということになります。 時給1000円で考えると、週20時間働けば月額88,000円は自動的に超えてしまいます。 とすると、パート先で社保加入しないためには、1週20時間未満の勤務時間にする必要がありそうです。

ちなみに、裏技もないことはないです。 パート先を2社以上にすれば、106万円の壁にひっかかりにくいというものです。 どういうことか。 この106万円の壁の要件は勤務先1社1社で判定をするからです。

つまり、パート先A社で106万円の壁の要件を満たしていない、パート先B社でも要件を満たしていない、その場合、A社B社の合計の月額報酬等で106万円の壁を超えていても、社保加入しなくてもいいということです。 続いて、従業員数50人以下のパート勤務先の社保加入要件について。 この会社規模であれば、2024年10月以降も106万円の壁は関係ありません。 4分の3要件と言われる、所定労働時間・日数が正社員の4分の3以上という要件を満たさなければ、勤務先で社保加入とはなりません。

4分の3要件は、例えば、正社員が週40時間勤務の場合に、週30時間以上働くと勤務先で社保加入だよ、というものです。 4分の3要件にも130万円の壁にも引っかからなければ、その方は社会保険の扶養のままでいられます。 逆に、4分の3要件には該当しなくても、130万円の壁に引っかかってしまうと、国保・国民年金加入となってしまうので、そこは十分注意してください。

今後の社保適用拡大

今後の社保適用拡大について。

今までお話ししてきた内容が現時点での決定事項です。 それに対し、ここからの内容は今まさに議論されている社会保険の適用拡大についてで、これらの厚生労働省発表資料に基づいたものです。

知って頂きたい論点は主に2つです。

①106万円の壁の会社規模要件
・現在
 従業員101人以上:4500万人(正社員)+90万人(パート)
・2024年10月~
 従業員51人以上  20万人(パート)が対象
・今後(早ければ2026年~)
 会社規模要件を撤廃  150~510万人が対象
 ※個人事業所の非適用業種の解消・社保強制加入も検討中
②複数勤務者・フリーランスの社保加入必須
 ⇒106万円の壁逃れを防止する案 +外注業者

106万円の壁の会社規模要件の廃止による適用拡大、と、複数勤務者・フリーランスの社保加入必須、です。 まずは106万円の壁の会社規模要件の廃止、について。 説明してきた通り、現在101人の会社規模要件が、2024年10月から51人以上と社保適用が拡大します。 この会社規模要件をそもそもなくそうという内容で、こちらの朝日新聞記事によるとこの方針はもう固まっているとのことです。

会社規模要件撤廃の表向きの理由は、働く会社次第で社会保険適用に差が出るのは平等性の観点から望ましくない、というものです。 ただ、本当の理由、一番の理由は社保の財源確保、です。

現状の会社規模101人以上だと、社保加入者は正社員4500万人、パート90万人の合計4590万人です。 これが、2024年10月からの改正で新たにパート20万人が新規加入となります。 で、実は同時並行で現在社会保険の適用事業所となっていない数人の個人事業主の従業員も社保加入とする動きがあるのですが、これと会社規模要件の撤廃が同時に実現してしまうと、新たに最大510万人が社会保険の対象となってしまいます。 これは社保の財源的にはかなりインパクトが大きいですよね。

今のままの流れだと、ここまで適用拡大は進んでしまいそうです。

続いて、複数勤務者・フリーランスの社保強制加入について。 厚生労働省資料ではこのように記載されています。 単独で適用要件を満たさないものの、労働時間等を合算すれば適用要件を満たす場合は社保加入とさせる、という内容です。 第2章で106万円の壁を逃れるために、2社以上でパートをする方法をお伝えしましたが、それを防止する案が今議論されています。

これ、制度として実現するのは、実務上難しい気もします。 というのも、年金事務所や勤務先がパート従業員の副業先の勤務状況も把握する必要があるからです。 ただでさえ雇用関係の手続きは面倒なのに、ここまで負担を求めるのは現実的ではない気がしますが、どうでしょう。

ただ仮に実現してしまうと、もはや社保の扶養逃れはかなり難しくなってしまいそうです。 もはやパート従業員に対する増税と言っていい内容ですが、今後どうなるのか、動向を注視していきたいと思います。