【節税】役員賞与を活用した社会保険料削減策が終了~札幌の税理士が解説~

小規模法人の経営者に大ダメージ、役員賞与を活用した社会保険料削減策の封じ込めが始まりそうです。 法人化による大きな節税策としてはこちらの3つが効果的で有名です。

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使える使えないかはともかく、小規模法人の社長であれば、少なくともこの3つの内容は把握していなければまずい、そんな内容です。 で、今回の内容は、このうち、役員賞与を利用した社保削減策が社会保障審議会で問題になって近い将来使えなくなりそう、というお話です。

現段階ではまだ確定している内容ではありませんが、ほぼほぼ規制が入ることは間違いないです。 経営者の方には大ダメージです。

役員賞与を利用した社保削減スキームとは

■やり方:
 ・毎月の役員報酬を6万円にする
 ・年に1度役員賞与を支給する
  ※社会保険の1事業年度で2回支給
■効果:年収1200万円の場合
 ・月給100万円:約287万円
 ・スキーム使用:約125万円
  ⇒年間161万円の差が出る
   ※上記は法人・個人の負担額合計

役員賞与を利用した社保削減スキームの概要について。 節税情報を調べている経営者の方であれば、一度は聞いたことがあるかもしれません。 やり方としては、毎月の役員報酬額を少なくする、多くの場合では毎月6万円ですね。

で、それだけだと生活ができないので、年に1度役員賞与としてどかんと支給する、というスキームです。 仮に年収1200万円に設定している経営者の方であれば、毎月の給与は6万円に抑えて、年に一度、差額の1128万円を賞与としてもらう、ということです。 こんな方法で本当に社会保険料を削減できるの、と思うかもしれませんが、めちゃくちゃく削減できます。

こちらをご覧ください。 4年前に作成したものなので、現在と少し多少保険料率が異なりますが、大勢に影響はありません。 40歳以上の年収1200万円の社長を想定しています。

①が削減策を使わない、毎月100万円の役員報酬を受け取るやり方 ②が削減策を使った、毎月は6万円のみ、役員賞与で年1回1128万円を受け取るやりかたです。 で、黄色部分が1年間の社会保険料負担額です。 1と2の差額はなんと161万円です。

年収は同じにもかかわらず、スキームを使うだけで年間161万円の社会保険料削減ができるということで非常に効果的な節税策となっています。

スキームの仕組みも少しだけ解説させてください。

こちらは社会保険料の料率表です。 標準報酬月額に応じて社会保険料が高くなるのですが、特に健康保険料は月給139万円まで保険料がどんどん上がり、毎月の給与の場合は上限額が大きくなっています。

それに対し、こちらをご確認頂ければ分かるのですが、賞与に対する健康保険料の上限額は年間573万円と、月額報酬と比べると低くなっています。 さらに、この賞与の年間というのは、法人の事業年度のことではなく、社会保険上の一年間のことで、毎年4月1日から翌年3月31日までのことです。

なので、こんな感じで工夫をすることができます。 仮に法人の決算が10月の場合、第3期の役員賞与を2024年8月1日に支給し、第4期の役員賞与を2025年2月1日に支給します。 そうすると、社会保険の1事業年度のうちに2期分の役員賞与を支給することができます。 つまり、2期分の役員賞与額のうち、この年間573万円を超えた分に対しては健康保険料がかからない、そんなことができるスキームとなっています。

ちなみに先ほどお見せしたこちらの表は社会保険の1事業年度に1期分の役員賞与を支給した場合のシミュレーションなので、2期分を支給できればスキームによりもっと社保削減ができるということになります。 このように、役員賞与を活用した社保削減策の効果は絶大です。

社会保障審議会で問題へ

■社保削減策がネット経由で広まった
 ⇒今回問題視された
■社会保険の最低標準報酬月額の該当者を調査
 ⇒ほとんどが代表者・役員(小さな会社)
 (さらに)高額な賞与支給が目立ち
     かつ、その件数が上昇傾向
■現行の標準賞与額の上限額の妥当性が問題視
 ⇒上限額が引き上げられる方向で検討される見込み

前の章でご紹介した社保削減スキーム、税理士業界ではある程度の知名度がありましたが、それ以外の方にはマイナーな策でした。 それがブログやYouTube等の発展に伴い、事業主の方にも浸透し、スキーム利用者が増えてきました。 どの節税スキームもそうなのですが、利用者が増え、目立ってくると封じ込めが入ります。 今回は厚生労働省の社会保障審議会医療保険部で問題視されました。 きっかけは、社会保障審議会による最低標準報酬月額の該当者の調査でした。

こちらが該当の資料ですが、最低賃金等の条件があるにも関わらず、標準報酬月額5.8万円に該当する社会保険加入者が増えている背景はなんのか、という疑問からです。 確かに、通常社会保険加入のハードルは106万円の壁に該当する方であり、月収で言えば8.8万円です。 それを下回る月収5.8万円でなんで加入者が増えているのか、ということです。

で、社会保障審議会が該当者を調べたところ、こちらの3パターンに分類されました。 1つ目が障害者等で最低賃金の減額特例許可制度が適用されているケース。 ただ、こちらは件数が少ないので増加の要因とは関係ありません。

2つ目は経営者の配偶者等を役員とし、社会保険加入としているケースです。

で、問題視されているのは3つ目で、代表者や役員に月額5.8~7.8万円の役員報酬を発生させているケースです。 ほとんどのケースでは従業員数が少ない小規模法人の役員でした。

さらに、報酬を極端に低く設定し、高額な賞与を支給しているケースも存在する、と正に役員賞与を活用した社保削減策の内容が指摘されています。

また、こちらの資料によれば、健康保険料の上限額である573万円以上の賞与支給件数が平成28年から年々増加していることも分かります。 正に役員賞与を利用した社保削減スキームが増えていることを意味します。

で、当然改正が加えられる流れとなりますが、ここでは標準賞与額の上限額を引き上げる方向で検討することが示唆されています。 これ、そもそも昔は賞与に対して社会保険料が発生しなかったんですよね。 それが2003年から賞与に対しても社会保険料の徴収が始まって、金額も引きあがってきたという背景があります。 社会保険料については財源不足で、あの手この手で徴収を強化しています。

最近で言えば、今年10月からの106万円の壁の改定で社保加入者が増えたり、近い将来撤廃されるのではないかと危惧されている社会保険の扶養廃止の話もあります。 そういった背景を考えれば、この役員賞与を活用した社会保険料削減スキームは近い将来封じ込められることは間違いないと思います。 単なる節税スキームであり、扶養の問題と違って、これにより本当に生活が困窮するケースがあまり考えられないからです。 国側からすれば、改正しやすい内容となります。 早ければ1年以内に大きな動きがあるかもしれないので、情報を逐一チェックしておきましょう。

社会保険の削減内容で言えば、マイクロ法人を活用したスキームも有名ですが、こちらも問題視はされています。 こちらも動きがあり次第、発信したいと思います。